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YOGA研究会での報告

2021年4月15日

 私が所属するヨーガ療法学会では、定期的に研究会を開いています。先日、そこに報告者として登壇する機会をいただき、バリ島の伝統医療とヨーガ、アーユルヴェーダの関係について、研究のはじまり部分を報告しました。今回はその内容について共有できればと思います。

バリ島の庭

 ひとつめの話題は、バリ島の庭についてです。バリ島にはちょっと風変わりな庭があります。伝統的に、バリ島の住宅は塀で囲まれており、そのなかに寝る場所、キッチン、バス&トイレ、倉庫、子供部屋、儀式の部屋などなど、用途ごとに建物がたっています。その塀の外側に、道路に面して細長い庭があるのです。

 庭というと見て楽しむイメージですが、ここにはさまざまな種類の植物が植えられます。儀式に使うためのプルメリアやハイビスカス、スパイスに使うレモングラス、生薬として使うもの、虫除け、いろいろ使える椰子の木などなど。さらに、特徴的なのは、それらの植物は、基本的に誰でも使うことができます。日本でも道路に面して植木鉢を置いたりしている風景はみられますが、その花や植物を誰でも使って良いなんていうことはほとんどないですよね。

 バリ島の人たちは、この庭に植えられている生薬を最大限に活用してきました。「バリアン」(一般的にはシャーマン/呪医)と呼ばれる地元の伝統的な医者が勧めてくれる調剤に必要な植物も、どこでも手に入りやすいものでした。

 しかしながら、近年は都市化の影響で、そうした庭が無くなっています。あったとしても、外来の観葉植物が植えられたり、コンクリートで固められてしまったり。民間医療を支える環境は、急速に失われています。

植物についての古文書

 さまざまな植物にどのような効能があるのか。民間では口頭で伝えられてきました。伝統的な医者であるバリアン達もまた、生薬とその調合については、祖先から受け継いできた知識をもつとともに、植物についての古文書に学ぶこともあります。

 その古文書には、植物の絵とその植物がどのような病気に対応するのか、あわせて、粉にするのか、汁を抽出するのか、葉を使うのか、根を使うのかなど、使用法についても書かれています。その古文書が書かれた経緯も大変おもしろいのですが、昔、バリ島のある王様が、人びとの病気を直すためにどうしたら良いか、そのヒントを得るために森で瞑想していました。その瞑想が神に通じ、神が植物にしゃべる力を与えたため、植物たちは、その王様に自分の効能と使い方を教えたそうです。想像するとなかなかコミカルな世界観ですよね。

 バリ島はインドの文化や宗教の影響をうけながらも、オリジナル要素を多分に含むようにアレンジしてきた歴史があります。生薬についても、インドのアーユルヴェーダの影響をうけ、伝統的な医者のなかにもアーユルヴェーダを参照する人もいますが、上に書いたようなバリ島独自の歴史的アレンジを経由した古文書もまた重視されています。

伝統的な医者=シャーマンとしての「バリアン」とヨーガ

 バリ島ではヨーガが盛んです。しかしそのヨーガのほとんどは、観光客向けにアメリカやヨーロッパから逆輸入されたものになります。では、バリ島のよりローカルな側面では、ヨーガはどのように受容されているのでしょうか。

 ひとつには、以前少し触れたことがあったように思いますが、祭礼や儀式の際、お祈りをすることと関係します。お寺に集まり祭壇に向かって座る人々にたいして、ヒンドゥー教のお坊さんが「アーサナ」と声をかけると、集まった人びとはすっと姿勢を正して座り直します。次にお坊さんが「プラーナーヤマ」と発すると、呼吸を整えて、それから神や祖先への祈りをはじめます。この、「アーサナ」と「プラーナーヤマ」はまさにヨーガの8段階の3段階目と4段階目、あのアーサナとプラーナーヤーマですよね。

 もうひとつ、伝統的な医者であるバリアンのなかには、ヨーガを意識して生活している人びとがいます。しかしながらそれは、毎日戦士のポーズをするとかいうことではなくて、上であげた古文書の書き写しのことを指してヨーガと言ったりするのです。

 バリアンはバリ島のさまざまな古文書を、仏教でいうところの写経のように書き写したり、あるいは古文書そのものを書いたりすることもあります。そのようにして、古文書から診療や調剤の方法を学ぶとともに、自分のなかのエネルギーやスピリチュアルな要素を高めるそうです。同様に、バリ島の地元の言葉であるバリ語や古代ジャワ語と、ヒンドゥーの神様やシンボルをくみあわせて描かれたルラジャハンと呼ばれる護符があるのですが、これを描くこともヨーガであると言われたりします

 考えてみれば、8段階のヨーガの2段階目、ニヤマのなかにある「スワディヤーヤ(読誦)」は、聖典についての勉強が含まれていますよね。それを踏まえれば、バリアンが行っている古文書の書き写しや護符の作成がヨーガであるというのも、それほど違和感がないと言えるでしょう。

 

 

 以上のことについて書いた論文がインターネット上に公開されています。専門的な内容も含んでいますが、よろしかったらご覧ください。