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8段階のヨーガ(その3)

:アーサナ(坐法)

2020年3月20日

 これまでは古典ヨーガの8段階のはじめの2つ、禁戒(ヤマ)と勧戒(ニヤマ)についてお話してきました。この両者は心得、考え方のような特徴がありました。実は、ニヤマの最後の2つ、「読誦(スヴァーディヤーヤ)と祈念(イーシュバラ・プラニダーナ)は、古典ヨーガの3つの実践のうちの2つ、「ジュニャーナ(知識の)・ヨーガ」と「バクティ(愛/献身の)・ヨーガ」に対応しています。このあたりのお話はまた改めてできればと思います。

「アーサナ」の意味

 ここからいよいよ、アーサナのお話をしていきましょう。アーサナは、多くの人がいかにもヨガらしいと感じるものだと思います。「アーサナ」とは、現代的には、数々のポーズを意味することが一般的です。例えば、戦士のポーズであれば「ヴィラバトラアーサナ」、鳩のポーズは「カポタアーサナ」、コブラのポーズは「ブジャンガアーサナ」など、ヨガのポーズには、名前に「アーサナ」とつくものがほとんどです。しかし古典的に言えば、アーサナといえば瞑想のために坐る姿勢のことを意味していました。

 現在100以上あると言われるポーズとしてのアーサナは、18世紀頃、ハタヨガの設立過程を通して生まれてきたものです。そのため、もともとは、アーサナはヨーガそのものというよりも、ヨーガの準備あるいは「外的ヨーガ」と考えられていました。8段階のヨーガの4つ目にあたる呼吸法も、5つ目にあたる感覚の制御も同様に「外的ヨーガ」にあたります。6段階目以降の3つが「サンヤーマ」と言われ、「内的ヨーガ」、すなわちヨーガの本質であるとされていました。そう考えると、アーサナ重視の現代ヨガと、アーサナを準備段階と考える古典ヨーガの違いがよくわかると思います。

昔は「座る方法」

 では、それほどポーズが無い時代のアーサナにおいては、どのようにして瞑想の準備をしていたのでしょうか。『ヨーガ・スートラ』によれば、アーサナは座る方法であり、その座り方は「安定していると同時に、ゆったりしたものでなければならない」とされます。後には、「痛みがないこと」も重要であるとされました。

 はじめの、「安定」と「ゆったり」ですが、安定させるためにはシッカリと努力して、身体がフラフラしないように固定する必要があります。しかし同時に、ゆったりするためには力が抜ける必要があります。このように、いわば緊張と弛緩の両方を行うことが重視されていました。古典ヨーガではこの緊張と弛緩の意識をとても重視します。この点も、現在のヨーガとは異なるところかもしれません。

神様のベッドとは?

 ヨーガの古典のお話のなかでは、神さまのために作られるベッドは、神さまの長大な身体を支えるために頑強でありながら、寝心地を良くするためにとても柔らかい必要があるという物語が登場します。ここにも、アーサナにもとめられる2つの特徴、強さと柔らかさの両方の必要性が明示されていますね。

 「緊張と弛緩」に対応する同様の考え方として、身体の中心にそって左右に存在する神経経路についての説明があります。自分からみて右側が太陽の経路と呼ばれ、自分の意見を押し通そうとする意思をあらわします。左側は月の経路と呼ばれ、周囲に同調しようとする心の状態をあらわします。これも、強さと柔らかさに対応しており、この両者がともにバランスよく活性化されることで、中心を通るスシュムナー管とともに、チャクラが活性化するとされています。

ヨガ教室での体験

 そうはいっても、いきなり、緊張と弛緩のバランスをとりなさいと言われても困りますよね。おそらく、昔の人も同じように困っていたのではないかなと思うのです。古典ヨーガにおいて、その本質は瞑想であると言われてきたわけですが、瞑想に入りやすくする、そのもっとも明快な指標は、緊張と弛緩のバランスをとってよりよく座るということになります。そこで、身体の筋力を使うような強めの動きと、柔軟性を使う柔らかい動きをとりいれた、様々な準備運動がなされるようになり、これがハタヨガにおける様々なポーズの発明へと至る、と考えることができるでしょう。

 実際、私は教室で行う古典ヨーガのなかに、ハタヨガのポーズを積極的に取り入れています。私自身、様々なアーサナ、呼吸等をした後、座って瞑想の姿勢をとると、明かに変化を感じます。それは、力が入っていないのに、体がすっと伸びて、揺れたり震えたりすることもなく、とても安定して落ち着いているのです。そのような感覚をとおして、アーサナとは、まさに坐法(坐る方法、坐るための方法)だなと思うようになりました。