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8段階のヨーガ(その2)

:勧戒(1)清浄

2020年1月29日

 勧戒(ニヤマ)とは、日常において心掛けるべきこと、特に自分自身との向き合い方を示しており、次の5つからなるものです。

(1)清浄(シャウチャ)

(2)知足(サント―シャ)

(3)苦行(タパス)

(4)読誦(スヴァーディーヤ)

(5)祈念(イーシュヴァラ・プラニダーナ)

 まずはこのうちの清浄(シャウチャ)からみていきましょう。清浄はとても大事な教えとして位置付けられています。

 清浄の基本は身体と心を清く保つことです。しかしながら、ヨーガの古典『ヨーガスートラ』によれば、清浄を守ることによって、明晰で明快な心の状態、心の朗らかさ(憂うつでないこと)、幸福感、専念性、感覚器官の制御、直感の能力があらわれるとされており、たいへん重要な教えというこが言えます。清浄によって、なぜそれほどまでの能力を授かることができるのでしょうか。

身体の清浄

 まずは身体面から見ていきましょう。身体は、シャワーを浴びたり、お風呂に入ったり、洗濯したものを身にまとったりすることで、アーサナや瞑想の途中でなんだか背中が痒いなとか、膝がムズムズするなというように気が散ることが少なくなりますよね。ここでいう清浄は、それだけではなく、自分の身体と向き合うための準備であるとも言えます。身体に気を使うことで、アーサナの質をあげたり、呼吸に意識を集中したり、さらに内観へと至るための、最初のアプローチであると言えるかもしれません。

 それでも気をつけなければいけないことは、やはり行き過ぎた清浄は害をもたらすということです。清潔にしようとしてシャワーを浴びすぎたり、身体をこすりすぎると、肌が荒れ、皮膚がもつバリア効果が失われます。近年では皮膚の常在菌の重要性が認められていますね。歯磨きや洗顔にも同じことが言えます。そのような行動が習慣化してしまうと、こんどは、何も触ることができないということになってしまいます。

心の清浄

 以上のような身体の清浄から一歩進み、心の清浄に目を向けてみましょう。心の清浄のためには、欲望、嫌悪、恐れ、不安、嫉妬、ねたみなど、さまざまな否定的感情を避ける必要があります。現代ではストレスによりそれらが生じやすく、その蓄積が身体の清浄を妨げることになるでしょう。さらに、テレビやマスコミも私たちの感情に訴えかけてきます。広告やCMは私たちの欲望を喚起させようとし、ワイドショーは情報をセンセーショナルに加工して、私たちの恐れや不安をかきたて、それが日常の刺激となっていきます。そうすると、私たちの心は麻痺し、清浄さが失われてくるのです。エネルギーは高い方から低い方に流れるので、私たちが心の清浄さを失う時、それは、他の人の清浄さを奪ってしまいかねません。

 そのような心の状態を捨て去ることによって、すなわち、そのような状態と心を同一にすることをやめ、外側からの刺激に感覚を奪われないようにすることによって、喜びが自分の中から溢れ出てくるし、外側のいかなることにも惑わされずに、一点集中の状態になることができます。

 このようにみると、清浄は、ヨーガの8支則のアーサナや呼吸、さらには瞑想にまでつながる教えだということがわかります。

空間の清浄

 しかしそうはいっても、はじめはなかなか難しいものです。心の清浄さの第一歩は身体の清浄さですが、ここでは同時に、空間の清浄もおすすめしたいと思います。ヨーガの上級者になると、どのような場所でも、どのような状況でもヨーガを行うことが可能とされます。初心者になると、なんとなく聞こえてきた音に気をとられたり、漂ってきた匂いが気になってあれが食べたいなと妄想を膨らませたり、ふと目についた衣服の毛玉が気になってアーサナの途中なのに毛玉とりをはじめてしまったり。特に視覚の影響というのは強くて、目についたものからどんどん考えを広げて、価値付をして、行動が促されることになりがちです。そのため、アシュタンガ・ヴィンヤサ・ヨーガでは、アーサの際に眼を特定の場所に固定して、視覚の影響力を極力排除しようとします。

 忙しくなると机の上が散らかってしまったり、洗濯ものをかたづける余裕がなくなったりして、部屋が雑然としてきますね。そうするとなんだか心まで雑然としてきて、余裕が無いような気になってしまいます。それとは逆に、ひと鉢の植物が心を清々しくしてくれることもあります。

 このようにみると、むしろ、初心者のうちは、空間を清浄に保つことがヨーガの助けになりそうです。物やことに執着することから離れるということがヨーガの目的のひとつですが、はじめは、なんとなく雰囲気の良い場所、お気に入りのマットやヨガウェアも、ヨーガの助けになってくれるかもしれません。

 いずれにしても、古典ヨーガでは清浄(シャウチャ)がとても大事なものということがわかりますね。